2023年房総西岸に流れ着いたもの 3/4

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2023年海岸に流れ着いたもの第三弾(3/4)です。

12月の半ば過ぎ、西〜南西の強風が吹いた日にザトウクジラが漂着しました。

ザトウクジラ

ザトウクジラは、夏の間はエサの豊富な北の海で過ごし、冬季は温かい海域へ移動し、そこで出産や子育てをします。

その途中で東京湾の方に迷い込んでしまう個体がいます。

そして、事故や病気などで亡くなってしまい、房総半島に打ち上げられてしまうことがあるのも、そんなに珍しいことではありません。

上と下の写真4枚は今回のではなく、2016年の1月です。死後房総半島南端近くで漂っていた(既に死亡後)ところを近くの港に繋留され、数日後に浜に引き上げられて後研究機関によって解体され、付近の砂浜に埋葬(2023年4月のニタリクジラとは違って波を被らない場所)されました。

結構大きく見えますが、これでもまだ若いメスです。

1月は既に南の海に行っているはずの時期なので、暫くこの近辺に迷い込んだ後に不憫にも亡くなってしまったのではないかと思います。

2023年は大阪湾に迷い込んだマッコウクジラもいましたが、残念ながらこういった迷いクジラは亡くなってしまうことが多いようです。

2023年12月のザトウクジラ

そして、今回打ち上げられたザトウクジラは、4月のニタリクジラとは異なり、全く腐敗もなく腐敗臭もない状態でした。

断定はできませんが、亡くなってから打ち上げられたのではなく、打ち上げられてから絶命した可能性も高いと思います。

16年の写真を見ても仰向けに浮いていますが、今回打ち上げられた際も仰向けの状態で打ち上がっていました。

今回のもメスのまだ若かい個体でした。

しかし、これまで何度かクジラ(イルカと呼ばれる種類も含め)の死骸を見たことがありますが、こんなに生々しい状態のクジラの遺体を見たのは初めてでした。

ここで話が少々逸れます

ところで、クジラの後に( )をつけて「イルカと呼ばれる種類も含め」と書きましたが、前々から度々気になっていることがあるので、それについて触れておきたいと思います。

それが何かといえば、クジラとイルカを別の動物だと思っている人がいますが、生物分類上クジラとイルカには差がないということです。

クジラとイルカの違いは、概ね体長4m以下の種をイルカ、それ以上の大きさの種をクジラと呼んでいるだけです。科学的根拠に基づく分類ではなく概念的な区分に過ぎないので、逆にこれに当てはまらない例外もあり、いい加減と言えば非常にいい加減で曖昧な言葉です。

明確な定義などない言葉であるため、余計な誤解を招くことになっているのだと思います。

例えば、オキゴンドウなんかは、一般的にイメージされるイルカの代表例のバンドウイルカマイルカと分類上は同じマイルカ科に属するのですが、体長が4mを超える(6mくらいになる)そこそこ大きな種(伊豆大島の近くでカヤックに乗っていて群れに遭遇したことがありますが、結構な大きさでした)であるため、イルカの範疇を超えることになります。

イルカとつく科に属する種なのにイルカとは呼ばれないの種がある(オキゴンドウ以外にも少なくない)のも変ですが、生体的にも形態的にも大きく異なる大型のハクジラ(イルカと呼ばれる種類は皆ハクジラ)もヒゲクジラ(大型のハクジラより小さなヒゲクジラも存在するが、基本的にはヒゲクジラにはあまり小型の種がないため、イルカと呼ばれるヒゲクジラは存在しない)も総称して「クジラ」という言葉しかないのはさらに奇妙に思います。

因みにシャチもハクジラの一種ですが、これもクジラとは違う動物と認識している人がいるようです。

逆な例では、日本語のイルカと英語のDolphinは意味が概ね一致しますが、英語ではネズミイルカの仲間だけPorpoiseと呼んで区別しているのもちょっと奇妙です。

また、大きさの違いだけでなく、なんとなく嘴のある小型のクジラ類のみを「イルカ」とするような考え方もあるようです。

以前テレビの報道でスナメリのことを「イルカと似てはいるけど違う動物」のように言っているのを聞き、呆れてしまったことがあります。

前述の通り、イルカは小型はクジラの総称なのに、「イルカ」を何か特定の種(おそらくバンドウイルカ辺り)を指しているように感じられる口ぶりの報道だったからです。

スナメリは、かなり小型(体長1.5〜2m程度)で、日本各地で見かけることの多い、ネズミイルカ科に属する大変身近なクジラ類の一種です。

ネズミイルカ科だから英語の場合はDolphinではなくPorpoiseということになるのでしょうが、大きさからしても、科の名称にイルカとつくことからしても、日本語では「イルカの一種」で良いのではないかと思います。

スナメリの小柄なこと以外の大きな特徴は、背ビレがほぼなく背中がツルッとしていて、嘴もほぼ無い顔貌をしていることです。

察するところ、この報道ではこうした特徴から「イルカとは別の動物」と呼んでいたのではないかと思うのですが、だとすると嘴のないハナゴンドウなども、そういった認識の仕方ではイルカではないということになりそうです。

しかし、ハナゴンドウもバンドウイルカと同じマイルカ科に属し(マイルカ科は種が多い)、体格も近く、顔貌以外は体型も似ています。

そして、同じ水族館などでバンドウイルカと一緒に暮らし(自然界でも他の種のクジラ類と一緒に行動することが多いそう)、一緒に「イルカショー」にも主演しています。

実際私が初めてハナゴンドウを目にしたのは、小学生の頃に遠足で江ノ島水族館に行って観たイルカショーでした。

小学生にとってはこっち(バンドウイルカ)は嘴があって、こっち(ハナゴンドウ)は嘴がない程度しか違いがわからない程よく似て見えた記憶があります。

むしろ、体型も行動もこんなに似ているのに顔が明白に違うことが不思議なくらいでした。

ハナゴンドウとは縁があって、オンショアの風が強いに日に浜に流れ着いてしまったハナゴンドウを沖に返す手伝いをしたこともありました。

長くなりましたが、クジラ・イルカの呼称はこのように曖昧なことだらけです。

曖昧な分類をするくらいなら、クジラ・イルカと区別するのをやめて、全ての科をCetaseaでまとめるだけにした方が要らぬ誤解を招かなくて良いように思います。

近年ザトウクジラ生息域が変化している?

話をザトウクジラに戻します。

先にもちょっと触れましたが、ザトウクジラは一定の海域に定住するのでもなく、不規則に移動するのでもなく、夏は北の海域、冬は南の海域へと毎年決まったサイクルで移動をしながら生活しています。

夏は北で冬は南に移動なんて、なんだか理想的な生活のような気もしますが、当然ながらそれなりの苦労やリスクもあることと思います。

そして、行動パターンがわかりやすく、特に冬は島の沿岸域にいることが多いことから、ザトウクジラは最もポピュラーなホエールウォッチングの対象ともなっています。

これまで日本列島近辺では、冬の生活海域は小笠原や沖縄が一般的でした(ザトウクジラの生息域はほぼ北太平洋全域ですが、日本列島近辺で見かけるザトウクジラの夏季の主な生息域は主にオホーツク海辺りでしょうか)が、近年は海水温が上昇しているせいか南下する海域が北上しているようで、冬期に小笠原や沖縄まで南下せず、伊豆諸島辺りに滞在するザトウクジラも多くなっているようです。

そして、以前はホエールウォッチングというと小笠原父島や沖縄の慶良間などが有名でしたが、近年奄美辺りでもホエールウォッチングやホエールスイムなどが盛んになっています。

その後

言い方は良くありませんが、あまりに「新鮮」な状態だったので、肉を切り取って持ち去る不届き者などが現れやしないかと少し心配しましたがそんなこともなく、地元紙には掲載されましたがおそらく全国紙には掲載もされなかったようで、観に訪れる人も案外少なく、ひっそりと近くの海岸に埋葬されて幕を閉じました。

これが湘南や三浦半島辺りだったとしたら、新聞やテレビでも大きく報道されて人だかりもできる大騒ぎになったのではないかと思いますが、そんなことにならないもの、南房総の良いところです。

漂着したのはニタリクジラと同じ湾内でしたが少し離れた場所で、今度は浜の奥行きが十分ある場所だったので、波の被る心配のない砂の下に埋葬されました。

生きたまま仰向けに打ち上げられてしまったのだとしたら、さぞ苦しかったろうと気の毒でなりませんが、安らかに眠ってもらいたいと祈るばかりです。

→ 2023年房総西岸に流れ着いたもの 4/4に続く。

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